河南 順一さんは長きに渡って実務家として企業でマーケティングコミュニケーションを担当した後、2019 年より同志社大学ビジネススクールで教壇に立っています。パンデミックが始まり授業のオンライン化を余儀なくされた河南さんは、単にビデオ会議システムを使って授業を配信するというありきたりのオンライン授業には満足せず、環境や手法を大幅にアップグレードしたといいます。
コロナ禍によって授業にどんな変化があったのか、学生の反応はどのようなものだったのかについて、お話を伺いました。
そもそも実業界から教育の世界に転身したのにはどういう経緯があったのですか?
私はマクドナルド、アップル、すかいらーく、サン・マイクロシステムズなどでマーケティングの職に就いてきました。主にマーケティングコミュニケーションに携わってきましたので、キーノートスピーチなど、CEO のプレゼンテーションにも多く関わりました。
実際のところ、特に大学教員になろうと思っていたわけではありませんでした。私自身が同志社大学の出身だったのですが、10 年くらい前にある先生と知り合いになり、アップルやマクドナルドなどでの自身の経験談を、ゲストスピーカーとして毎年授業で話す機会をもらっていました。そんな中、学校でマーケティングコミュニケーションを教えられる人を探しているという話を聞き、このようなチャンスはなかなかないですし、これまでの経験を生かせるならと思い、チャレンジしました。
ビジネススクールの世界も競争が激しいですから、実務経験のある私に興味を持っていただけたのだと思います。
パンデミック前からオンライン授業はされていたのですか?
全くありませんでした。それが突然全部オンラインになってしまったんです。初めはパソコン 1 台とビデオ会議システムで授業を配信するという、いわゆる普通のオンライン授業をしていたのですが、コミュニケーションを教える立場として「これではちょっと貧弱だな」と思い直しました。YouTube は普段から見ていて、YouTuber (ユーチューバー)やストリーミングをしているゲーマーの方々がビデオによるコミュニケーションのたくさんのノウハウを持っていることに気づいていましたから、具体的にどういう機材構成になっていて、どうセッティングしているのかを調べました。
まずは画像をきれいにするところから取りかかり、カメラとキャプチャーカード、そして照明についても研究しました。動画を撮るのが好きなので普段使っていたデジタル一眼カメラを、新たに購入したキャプチャーカードでパソコンとつないで画像をきれいにしました。さらには第 2 カメラや iPad などとの画面の切り替えのためにスイッチャーも導入しました。プロが使うスイッチャーは数十万円もするのですが、簡易版(ATEM Mini)が以前より手頃な価格(4 万円弱)で手に入ることが分かったんです。ただ、時期が時期だったので品薄な状態で、入手するのに苦労しました。
そして、mmhmm が登場したわけですね。
そうですね。スイッチャーを使わなくても、ほぼ同じことが、とても簡単にできるようになりました。逆に、スイッチャーではできないようなこともできます。例えば、注目して欲しいところに自分の映像を移動させて強調したりすることはスイッチャーではできないことです。
実は、7 月初旬に入手した時はベータ版なので過度な期待はしていなかったのですが(笑)、どんどん機能が追加されて現在のレベルにまでなってしまった。このスピード感はすごいと思いました。
大学以外でも講演をすることがありますが、この状況の中、会社のガイドラインで対面式のセミナー会場に来られないという方もいらっしゃいます。そこで、セミナー会場にいる方、オンラインで見る方の両方を対象にしたハイブリッドなセミナーを行うというニーズが出てきました。このハイブリッドなセミナーでスイッチャーを使おうとすると、普段は研究室に設置している機材・ケーブル類などの一式を詰めた重いスーツケースを運び、しかも講演の 2 時間ほど前に会場入りしてセッティングしないといけないんです。そして研究室に帰るとまた配線のし直しが必要で、この負担は苦痛でした。
mmhmm があれば、かなり高度なことが MacBook Pro 一台でできてしまうんです。mmhmm のバーチャルグリーンバック機能もだいぶよくなってきたので、グリーンスクリーンを使わないでも、かなりきれいに映すことができるようになりました。
私が mmhmm を使っているところを見てびっくりしてくれているので、「何か面白い使い方ができそう」という気づきや発見が出てくるのでしょう。
学生さんたちの反応はいかがでしたか?
学生もオンライン授業が続いて疲れていると思います。ですから、視覚効果やアニメーションなども使いながら、ユーモアにあふれ、飽きない講義になるよう心がけています。
同志社のグローバルビジネススクールの学生の多くは、社会人経験のある外国人です。そもそも活発な発言があるのですが、私が mmhmm を使っていると、それに対して反応してくれたり、興味を示してくる学生もいますね。
私は普段からプレゼンではいかにインパクトを出せるかを学生に求めていますので、その格好なツールである mmhmm を使って自らそれを実践しようとしています。授業では、与えた課題をグループで議論し、その内容を発表してもらうことがありますが、私が mmhmm を使っているところを見てびっくりしてくれているので、「何か面白い使い方ができそう」という気づきや発見が出てくるのでしょう。差別化したり、印象的な見せ方をするために、mmhmm の活用を含め、色々と工夫してくれることに期待したいです。
今の時代、学生が積極的にディスカッションに参加することを求められるアクティブラーニングが重要です。ビデオ会議を使った授業の場合、人数が多くなると全員の顔が見られるわけではないので、対面と比べるとどうしても学生の反応がつかみにくいというデメリットがあります。
でも逆に、オンラインのメリットも感じています。先ほどのような課題を出して学生がオンラインでプレゼンテーションを行うと、対面では出てこないようなコメントがチャットで出てきたりするんです。プレゼンが終わってから手を挙げて、指されてから発言するのではなく、生のプレゼン映像を見ているその最中にニコ動のようにすぐに書き込めるのは、対面の授業ではできないことです。mmhmm とは直接的には関係ありませんが、新しくて面白いと思います。
パンデミックから学んだことはありますか?
働き方を変えようという流れはずっとありましたが、オンライン化はこれを機に一気に加速しました。これは(同志社大学のある)京都に引っ越してきて感じたことですが、東京いた頃はいろんな人・ビジネスとの接点が近くにあり、すぐにつながることができたんだな、と。それが、今はオンラインで簡単につながれるようになり、物理的距離をあまり気にしなくなりました。オンライン飲み会なども一般化したおかげで、ビジネスだけでなく、パーソナルな繋がりの部分でも距離がなくなってきたと感じます。そしてみんながこの状況に慣れてきたので、ビデオ会議だからといってかしこまったり緊張したりすることなく、最初から気持ちがほぐれた状況で話を始められるようになりました。
この春、母国に帰って修士論文のための調査をしている途中にロックダウンが始まってしまい、日本に帰って来られなくなってしまったという学生がいました。でも今年は口頭試問もオンラインで行いました。
このパンデミックでは、たくさんの方がビジネスで大打撃を受けてしまったし、残念ながら命を落とされた方も出てしまいましたけれど、新しい気づきや、これをきっかけとして進んだこともありました。ネガティブな面ばかりでなく、ディスラプション・破壊的イノベーションの機会として視点を切り替えてそういった面をうまく活用できれば、私たちの生活をこれまで以上に良いものにできるのではないでしょうか。
(このインタビューは実際の発言を編集したものです。)