
※この記事は 2 部構成レポートの後編です。前編はこちら:「AI のもたらす混乱と実態」
人工知能を仕事のための日常的なツールとして使うことは、空想の話から現実へと急速に移り変わりました。しかし、実際にはどれほどの価値をもたらしているのでしょうか?最近の Pew Research Center の調査によると、労働者の半数が AI が将来自分の仕事に与える影響に不安を感じており、3 人に 1 人は仕事の機会が減ると考えています。私たちもこのテーマについて独自に調査を行い、1,000人のナレッジワーカーに意見を求めました。
その結果、はっきりとした分断が見えてきました。生成 AI を生産性向上への恩恵と捉える人もいれば、プロフェッショナルとしての基準を揺るがす信用ならない厄介者だと見る人もいます。
特に顕著だったのは、経営者・リーダー層と現場担当者との間にある認識の違い。両者は、AI ツールの価値や有用性、そもそも使うべきかどうかという点で、全く異なる見解を持っていました。
ただし、仕事における AI の最適な使い方を巡って多くの議論がある一方、ナレッジワーカーが最も評価していたのは、業務の自動化でも仕事の外注でもなく、「自分の考えを伝える手助けをしてくれる」ということでした。
経営層の視点:日常的な意思決定アシスタントトとしての AI
調査対象者の中で、VP(バイスプレジデント・副社長)レベル以上の経営層は、その他の従業員と比べて、AI を日常的な仕事のアシスタントとして使っている割合が 3 倍にのぼりました。多くのリーダーは、新しいテクノロジーを取り入れることに誇りを感じており、さらに 14% はさらに踏み込んで「AI はすでに自分の仕事に不可欠な存在だ」と回答しています。

彼らは具体的には AI をどのように活用しているのでしょうか?多くの人は生成 AI をブレインストーミング、様々な案の提示、よりよい意思決定のための問題整理を用途として挙げました。ただし、最終的な判断を下すのはあくまで自分でありたいと考える人が多数派で、76% のリーダーは「AI は、私の代わりに決断を下すのではなく、私の意思決定の補助をしてほしい」としています。
AI によって人間の役割が奪われることへの懸念についても、経営層はあまり気にしていないようです。将来 AI に仕事を奪われることを恐れていると答えた人のうち、経営層はわずか 14% にすぎませんでした。また、約 3 分の 2 のリーダーは「AI が作成したコンテンツでも、人間らしさが感じられるなら問題ない」と答えています。
現場の視点:脅威かも…それでも多くの人が使う AI
一方で、マネジメント職でないナレッジワーカーの多くは AI に対して慎重です。AI に仕事を奪われることを心配している人の大多数がこの層に含まれていました。そのため、「会話型 AI を職場で一度も使ったことがない」と答えた一般社員は 30% にのぼり、ほぼ同じ割合の人が「AI を使うと自己不信に陥る」と答えているのも不思議ではありません。また、「AI に仕事を奪われないと確信できるなら、仕事で AI を使うことにもっと良い印象を持つ」という人も同じくらい存在しました。

若い世代は AI に対してさらに慎重な傾向があります。Z 世代の回答者 31% が、仕事で会話型 AI ツールを使うことを恥ずかしく思ったり、罪悪感を感じたりすると回答しており、これは他の年齢層よりも明らかに高い数値です。
生成 AI の利用を避けている Z 世代は、AI を使う人は怠け者か倫理的に問題があると考えている割合も他の世代より高くなっていますが、彼らの罪悪感は、インターネットにある情報を吸収した魔法の機械に自分の仕事をアウトソーシングすることから来るだけではありません。生成 AI の出力精度、虚偽の情報を生成するハルシネーションの問題、セキュリティやプライバシーの不安など、さまざまな懸念が挙げられました。これは最近の他の調査結果とも一致しています。
しかし、そのような心配があるからといって、人々が AI を使うのをやめるわけではありません。注目すべきなのは、Z 世代労働者の 32% が AI を使うのは好きだが、他人には知られたくないと答えた点です。さらに、仕事で AI を使っている同僚を批判すると回答した人のうち、実に 3 人に 1 人は自分自身も日常的に AI を使っているという結果も出ました。

共通の土台:より良いコミュニケーションのためのツールとしての AI
経営層と従業員の間に分断があり、生成 AI の倫理や使い方に対する議論が続いているにも関わらず、ほぼ全員が同意していることが 1 つありました。それは、AI には仕事を代わりにやってほしいのではなく、仕事における自分の能力を高めてほしいという考えです。これは実に 10 対 1 の割合で支持されました。
そして、会話型 AI が彼らの能力を高めている分野を特定する点においては、労働者は仕事の自動化よりもブレインストーミングやコミュニケーションの支援を上位に挙げています。
その次に多かったのは、考えを整理し、言葉にし、同僚に理解してもらう手助けをしてくれることです。コーディングやデータ分析のような技術的な作業のサポートよりも、コミュニケーションのサポートに生成 AI を使っている人は 2 倍も多く、47% の労働者が、AI によって、より説得力のある伝え方ができるようになったと答えました。
生産性の黄金時代到来、あるいは、創造性の画一化ーどちらかは分かりませんが、少なくとも、AI のおかげで自分の考えをもっと上手に伝える力は、みんなが少しずつ身につけているようです。
