アレックス・スミス(Alex Smith)さんとベッカ・チャップマン(Becca Chapman)さんは、病気や怪我の治癒過程において、笑いや人と人とのつながりが不可欠であると固く信じています。2018 年初めにニューオーリンズで Prescription Joy を共同設立した二人は、長年ピエロとしての技術を磨き、子供たち、その家族、そして医療従事者を楽しませてきました。しかし、パンデミックによって、この活動は突然バーチャルの世界に移行せざるを得ない状況となりました。
今回、2 つの被災地をつなぎ(アレックスとベッカはハリケーン・サリーが上陸し避難モードに入っているところ、インタビュワーの私はポートランドの自分のオフィスで山火事で空気が汚染されている最中でした)、困難な状況の中においても前向きでいることについて話をしたのは、まさにぴったりのタイミングだったと言えます。
Prescription Joy でどのようなことをされていますか?
ベッカ:私たちは「ヘルスケア・クラウン」と呼ばれるピエロです。病院に行って、ユーモアや人と人とのつながりを活用して、患者さん、ご家族、そしてスタッフの皆さんのために、治癒プロセスのお手伝いしています。どんなことをするかというと、例えば、ベッドをマリオカートと見立てて、想像上のバナナの皮を投げてそれを迂回して、といった遊びをします。あるいは、年長の子供や大人の場合は、非現実的な設定をした上で会話をしていったりします。1 分間続けるので、最後には設定内容が全く変わってしまうこともあります。
アレックス:私たちが大切にしている信条の一つは、患者さんの健康な部分を取り上げるということです。病室に入っていくと、お子さんが医療機器につながれていたり、ギプスなどのギアを装着していることもあります。もしそのお子さんが「このカッコいいギプス見てよ!」と言ってきたらそのギプスのことを話しますが、そうでない限りは、そういった物は目に入っていないですし、全く意識しません。
例えば、ベッドをマリオカートと見立てて、想像上のバナナの皮を投げてそれを迂回して、といった遊びをします。
パンデミックが始まって、仕事や考え方に影響はありましたか?
ベッカ:たくさんのことを学びました。通常、実際に対面で訪問するときは、各部屋には 15〜 20 分ほど訪問し、待合室やあちこちの場所に顔を出しますので、1 日に 100 人以上の人に会うことができます。バーチャルになると人数は減りますが、より長い時間、時には一人のお子さんに 50 分ほどの時間をかけます。病院は多くのボランティアプログラムをキャンセルせざるを得なくなり、子供たちは人とのつながりを欲しているんです。
アレックス:ええ、全部キャンセルされましたね。私たちの活動はバーチャル訪問ですから、とても柔軟に対応できています。チャイルドライフスペシャリストと協力していますし、病院の規制内で実施できています。私たちの活動は身体的な治癒だけでなく、感情面での治癒にフォーカスをあてています。
スクリーンを通じてよりも、実際にその場にいる方が人の興味を引きやすいと思います。mmhmm はお二人のバーチャルでのパフォーマンスをどのように変えましたか?
アレックス:いろいろな力を与えられたと思います。すごいことです。子供たちがカメラにタッチしたり、魔法の言葉を言ったりすると、mmhmm の背景が変わる、といった遊びをしています。例えば、突然サメに食べられたり、様々な場所に次々に移動したり…。
Zoom で背景を切り替えるのはちょっと時間がかかるし、わかりにくいんです。mmhmm に新たにタブが追加されたのはとても素晴らしいです。私たちはこれを使って、ルームを素早く切り替えています。こういう機能があったらいいなと思うんですが、バーチャル訪問の最中に誰かがパイナップルの話をしたらパイナップルの画像をネットで見つけてきて、ドラッグ&ドロップで背景を簡単に変更できたら面白くないですか?
私たちの活動は身体的な治癒だけでなく、感情面での治癒にフォーカスをあてています。
さきほど身体的な治癒の話をされていましたが、あなたの仕事は感情面での治癒ですか?それとも、身体的な側面にまで踏み込んでいると思いますか?
ベッカ:術後の回復が早くなるという具体的な研究があります。また、笑っている時はドーパミンの量が増えていますので、状況によっては治癒を早めることになります。
アレックス:ある日廊下を歩いていたら 理学療法士が私たちを捕まえて「今日散歩が必要な子がいます 」と言ってきました。でもその子は私たちと散歩するのを嫌がっていました。それで、私たちは突然パレードを始めました。音楽を流してシャボン玉を作ったりすると、子供たちが参加しはじめてくれました。その子は予定よりも遠くまで歩くことができましたし、大きく力強いステップを踏むところをみせてくれたので、それを遊びの一部として取り入れてしまいました。ベッカはなにかをゲーム化することに長けていますね。
予想していなかった方法で治癒のプロセスを助けることになることもあるんですね。
ベッカ:そうですね。 ユーモアの余地は常にあります。お子さんが亡くなった直後に病院にお邪魔したことがありました。まだ私たちがこの仕事を始めたばかりの頃のことで、とても心配でした。エレベーターから廊下に出ると、そこには悲しみにくれた人たちがたくさんいて、私たちは「これは大変だ。一体何ができるだろう」と思いました。私たちはちょっとした手品をして、亡くなった子の兄弟とコミュニケーションをとってみました。そして、その子は笑ってくれたので、家族全員が一瞬だけ笑うことができました。そうすることで、死に対する哀悼の次のステップに進むことができたと思います。人の死を受け入れるにはとても長い時間がかかります。継続するためには、時には一旦そこから離れる必要があります。本当に短く一瞬笑っただけでしたが、それによってまた泣くことができるんです。
ユーモアの余地は常にあります。(追悼を)継続するためには、時には一旦そこから離れる必要があります。
あなたにとって、パンデミックからの一番の学びはなんですか?
アレックス:私にとって最高の出来事は、会社から解雇されたことです。劇団で 6 年間働いてきました。良い芸術を作ってきましたが、心は疲れていました。コロナウイルスのおかげでベッカと私は 100% の時間をこの仕事に使うことができ、私たちは飛躍的に前に進むことができました。私たちの計画は、ニューオーリンズ地域の全ての病院に毎日私たちのようなヘルスケアクラウンがいるようにすることです。それに向けて、私たちは一歩前進しました。私たちの投資をすべてここに集中し、病院でのケアの一部となれるよう頑張っています。
ベッカ:私も同じです。私は非常勤で教師をしていましたが、今は全ての時間を使えるようになりました。この仕事に 100% の力を傾け、それによる効果が分かったこと、人とのつながりが切望されているということ、すべてが明るい兆しです。
アレックス:バーチャルでの訪問はこれからもなくならないと思います。私たちはずっと続けていくつもりです。そして mmhmm に大いなる可能性を感じています。私たちのやっていることをさらに良いものにするためにできることは、まだまだたくさんあると思っています。
(このインタビューは実際の発言を編集したものです。)